最初に、出力5mW、波長632.8nmのHe-Neレーザー発射装置に光フィーバーを装着したものを作製し実験に用いた。レーザー光による活性酸素の生成を確認することを目的とし、活性酸素による精製DNA鎖切断作用を検討したところ、銅イオンの添加と6時間以上の照射時間を要した。また、細胞増殖に対しても無効であったことから、実験系を成立させるには出力が不足していると考えられた。そこで、面積あたりのエネルギーを、実際に歯科において除痛目的で用いられる場合と同等な条件にすることを目指し、最終的に最高出力65W、出力可変式で波長1060nmのYAGレーザーを光ファイバーを通して照射することで、任意の面積を均一に照射可能とした装置を作製した。これを用い卵巣癌株、RTSG、RMG-IIに対しレーザーの直接的な殺細胞効果を検討した。その結果、約280J/cm^2からエネルギー密度を増すに伴い強い殺細胞活性がみられ、両細胞株で異なる照射時間-効力曲線が描けた。また、RMG-IIは約860J/cm^2、RTSGは約1150J/cm^2でほぼ完全に増殖が抑制された。次にCDDP耐性克服能を検討した。GSTがperoxidase活性を有することに着目し、レーザーにより生じる活性酸素でGSTを不活性化し、GST/GSH解毒システムの系外に出すことによる耐性克服を目指した。まず、RTSG、RMG-IIのレーザー照射による細胞内GST活性とGSH量の変化を検討した。その結果、RTSGは著しいGST活性の低下を示したが、RMG-IIはGST活性の変化を示さなかった。また、両株共にGSH量に変化はみられなかった。次に、レーザー照射によるCDDPの感受性の変化を検討した。その結果、両細胞共にレーザー照射時間とCDDP濃度の上昇に比例して殺細胞効果が上昇したが、特にRTSGにおいてレーザーを照射することにより、CDDPの殺細胞効果が著しく増強した。従って、GSTの活性亢進が主耐性機序であるRTSGの様な細胞に対しては、レーザー照射によってGSTを不活性化することにより、CDDP耐性が克服できる可能性が示唆された。
|