最初に、レーザーの直接的な殺細胞効果を検討した。ヒト卵巣癌由来のCDDP自然耐性株で、耐性機序が細胞内GST活性の亢進による細胞株RTSGと他の耐性因子によると考えられる細胞株RMG-IIに対し、波長1060nm、60WのYAGレーザーを均一に照射した。その結果、約280J/cm^2からエネルギー密度を増すに伴い強い殺細胞活性がみられ、RMG-IIは約860J/cm^2、RTSGは約1150J/cm^2で完全に増殖が抑制された。次に、CDDP耐性克服能の検討として、RTSG、RMG-IIのレーザー照射後の細胞内GST活性とGSH量を測定したところ、RTSGでは著しいGST活性の低下が確認された。しかしながら、RMG-IIでは顕著な差はみられなかった。また、GSH量に関しては両株共にレーザー照射の有無による差は見られなかった。さらに、レーザー照射によるCDDPの感受性の変化を検討したところ、両株共にレーザー照射後にCDDPを添加することでCDDPの殺細胞効果が増強し、特にRTSGにおいて著しい増強がみられた。しかし、この増強効果がレーザー照射時の熱の作用であることも考えられたため、加温処理による細胞増殖およびCDDPに対する感受性の変化を検討した。条件はレーザー照射時と同じ培養液温度、処理時間とした。その結果、加温処理単独群と無処置群間、また、加温処理後CDDP添加群とCDDP単独群間で顕著な差はみられなかった。よって、レーザー照射によるCDDP感受性の増強は熱作用ではなく、レーザー光自体の効果であることが示唆された。以上の結果より、レーザー照射によるCDDPの効果増強はレーザー照射によりGSTが不活性化され、GSTを触媒としたCDDP-GSH抱合体形成による解毒能力が低下し、CDDPが効率的にDNA鎖間架橋を形成することによると考えられた。
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