アンドロゲンレセプター(AR)cDNAを用いて大腸菌発現系による機能ドメインの大量発現を試みた。大腸菌発現ヒトAR DNA結合ドメイン(ARDBD)は単独ではダイマーを形成することはなかったが、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現するとGST部分がダイマーを形成するために融合タンパク質もダイマーとして存在していた。しかしスロンビン消化によってダイマーを形成するGST部分を取り去ると、アンドロゲン応答配列(ARE)をもつマウス乳癌ウイルスDNAへの結合親和性は劇的に減少した。すなわちARDBDはそれ自身ではダイマーを形成はできず、そのためにDNAとの結合親和性が減少すると考えられた。一方、発現ARステロイド結合ドメインはダイマーを形成するので、おそらく生体内で発現しているAR全長分子の場合はステロイド結合ドメインがダイマーを形成することによって、ふたつのDBDが近接し、その高親和性かつ特異的DNA結合能が誘導されると考えられた。 ついで上記の発現ARDBDを用いてin vitroでマウス顎下腺でアンドロゲン依存的に発現するEGF遺伝子AREの同定を試みた。発現ARDBDを負荷したアフィニティーカラムを作成し、これとマウスEGF遺伝子より得た遺伝子断片との結合性を検討した。マウスEGF遺伝子のプロモーターの5′上流2.2kb内を検索し、そのうち-727〜-598までの130bがARDBDと強く結合することを見いだした。この塩基配列中に、同様のマスウ顎下腺や前立腺でアンドロゲン依存的に発現が制御されている遺伝子と非常に類似する領域が見いだされた。
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