口腔粘膜疾患は、水庖、びらん、潰瘍、白斑等の病態を示すが、病因は多岐にわたり、局所的な原因から自己免疫疾患等の免疫異常、内蔵病変やアレルギー、細菌やウイルス感染症等があり、その鑑別診断は極めて困難である。そして、経過が長く、経過中に悪性化を示すものもあるため患者の精神的、身体的負担は非常に大きい。そこで、より早く確実な診断法を確立する目的で、粘膜疾患の病態を免疫組織学的手法を用いて、細胞や組織に存在する複合糖質の糖鎖構造の疾患特異性および病態による色調の変化を研究課題とした。本研究では、特に、経過が長く多彩な病態を示す口腔粘膜扁平苔癬について検討した。 1.扁平苔癬の糖鎖(WGA)の分布は、正常粘膜と比べ質的にも量的にも異なり、正常粘膜が一定の方向性を示すのに対し、多彩な像を示した。そして、糖鎖構造は扁平苔癬の病態によっても異なり、発赤が少なく良好な経過をとった症例と発赤が強く難治性の症例とでは明らかに相違し、粘膜の糖鎖のレクチン結合性と粘膜の発赤との程度は相関関係を示した。この結果により、両者は、予後を判定する客観的指標となり、診断への応用の可能性のあることが判明した。 2.粘膜の色彩を客観的に数値化して表現できる色彩色差計(ミノルタ S-100)を利用し、粘膜の色彩を測定し、CIE 1976 L^*a^*b^*表色系により表示した。結果は、正常粘膜の色彩に比較し、扁平苔癬では糖鎖のレクチン結合性と粘膜の発赤は相関しL^*およびb^*負の方向を示し、a^*は正の方向を示した。また、正常粘膜に対する色差ΔE^*abは症状の程度を判定する指標になりうることが判明した。 3.自覚症状との関係をvisual analogue scaleを用いて対比した結果同様の傾向を示した。
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