コラーゲン溶解能を持つ象牙質被着面処理剤を用いて、コンポジットレジンに代表されるレジン系修復材料と歯質との接着性の改善と処理歯面に及ぼすダメ-ジについて主として検討してきた。当該年度においては、歯質との接着が要求されるその他の修復材料に対しての効果を検討した。即ち、アマルガム、ガリウム合金に代表される金属系直接修復材料は修復物自身は極めて優れた機械的物性を有しているにもかかわらず歯質との接着性は全く持たないため、臨床においては窩洞形成時の健全歯質の削除や辺縁封鎖性に関してレジン系修復材料に較べ劣る。我々はこれらの欠点を克服すべく銀鏡反応を利用して被着歯面上に金属銀を折出させることによってレジンセメントなどの合着剤を用いることなく、これら金属系直接修復材料と歯質との合金化反応によって接着が可能となる全く新しい接着法を見い出した。しかしながら、その接着力はレジン系修復材と較べると弱く改善を要した。そこで、銀鏡反応に先立つ被着歯面処理としてコラーゲン溶解剤を用いることにより接着性、辺縁封鎖性に関して著しく改善されることを見い出し公表した。1.接着性に関する知見:アマルガムとしてDispersalloy (J&J)を用いるときエナメル質に対して4.03±1.67Mpa、象牙質に対して18.23±4.71Mpaの剪断接着強さを示し、象牙質に関してはレジン系修復材料に較べても同等以上の接着強さを発揮した。同条件において、ガリウム合金であるGallium alloy GF (Tokuriki) は象牙質に対して5.52±4.24Mpaであり、アマルガムと比較して極めて不安定で弱い接着強さしか発現しなかった。2.辺縁封鎖性に関する知見:窩洞切断面の顕微鏡観察を行った結果、アマルガム、ガリウム合金とも修復物と歯質との間の間隙は皆無であった。この結果は、コンポジットレジン、グラスアイオノマーセメントなどのレジン系修復材料が硬化時に重合収縮などにより間隙の発生が避けられないのに対して、アマルガム、ガリウム合金は硬化時における体積変化が極めて小さいためと推察され、辺縁封鎖性に関してはレジン系修復材料に較べて明らかに優位性を持っていた。
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