研究概要 |
当科で継代培養している扁平上皮癌細胞と唾液腺由来腺癌細胞を用いてシスプラチンとペプロマイシンに対する感受性を検討した結果,扁平上皮癌細胞はペプロマイシンに対して高い感受性を示し,唾液腺腺癌細胞ではシスプラチンに対して高い感受性を示すことを明らかにした。その原因を究明するため抗癌剤の細胞内濃度について検討し,感受性の相違は抗癌剤の細胞内への取り込みの違いに起因していることがわかった。さらに各培養細胞の細胞膜の脂質組成の分析を行い,扁平上皮癌細胞では細胞膜の脂質の60%以上がリン脂質であるのに対し,唾液腺腺癌細胞では80%が中性脂質であることが判明した。すなわち脂質組成の相違により生じる細胞膜の疎水性の違いが抗癌剤の細胞内への取り込みに影響を与えているものと示唆される結果を得た。 そこで扁平上皮癌細胞の細胞膜の脂質組成と同組成の抗癌剤封入リポゾームを作製し,培養細胞に対する殺細胞効果について検討を行った。その結果,扁平上皮癌細胞に対しては抗癌剤封入リポゾーンは抗癌剤単独投与に比較して高い抗腫瘍効果を示したが,唾液腺腺癌細胞に対しては抗癌剤単独と同等の殺細胞効果しか得られないことが判明し,リポゾームの脂質組成と同組成の細胞膜を有する標的細胞のみに高い効果を示すことが示唆され,本法は有用なDrug delivery systemと成り得るものと考えられた。以上の結果を第53回日本癌学会総会(名古屋),第39回日本口腔外科学会総会(名古屋)において発表した。 今後,唾液腺腺癌細胞の細胞膜と同組成の脂質組成で構成されたリポゾームを作製し,培養細胞に対する効果を検討するとともにヌードマウス移植腫瘍を用いてより臨床に即した検索を行う予定である。
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