研究概要 |
腫瘍の組織型の違いにより抗癌剤の抗腫瘍効果に差を生じることはよく知られている。われわれは無血清培養条件で5種類のヒト由来癌細胞のシスプラチン(CDDP),ペプロマイシン(PEP)およびドキソルビシン(DXR)に対する感受性の違いについて,その増殖を指標に検討した。無血清培養下においてCDDPは唾液腺由来腺癌細胞(SAC)に対して口腔由来扁平上皮癌細胞(SCC)よりも高い殺細胞作用を示し,SCCはCDDPに対して比較的抵抗性を示すことがわかった。一方,SCCはSACに比較してPEPとDXPに対して高い感受性を示すことが明らかになった。CDDP,PEPおよびDXRは受動輸送により細胞内に取り込まれることから,抗癌剤の感受性は細胞内の薬剤濃度に依存していると考えられる。したがって抗癌剤の殺細胞効果の違いは癌細胞の膜透過性の差によるものと推測された。膜透過性を決定する細胞膜脂質組成について検討した結果,SCCでは膜脂質の70%以上がリン脂質であり,残りはcholesterolであった。一方,SACでは80%以上がtriglycerideとcholesterol esterを中心とした中性脂質で残りの20%がリン脂質で占められていた。SACの中性脂質の上昇は細胞膜の流動性の低下を招き,結果的にSCCに比較してCDDPの細胞内濃度の上昇を示すものと考えられた。しかしSCCの膜脂質は主にphospholipidから成るため膜の流動性はSACに比較して高く,PEPとDXRはSCCに高い親和性を示したものと考えられた。これらの結果より癌細胞膜の脂質組成の相違が抗癌剤の感受性を決定する主要な因子と考えられた。そこでSCCの細胞膜の脂質組成と同組成のCDDP封入リポゾームを作製し,培養細胞に作用させ殺細胞効果について検討した。その結果,CDDP単独あるいはCDDPとリポゾームの混和物に比較してCDDP封入リポゾームはSCCに対して殺細胞効果の増強を示したが,SACに対しては増強作用は示さなかった。
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