本研究では、核酸分子認識・変換能をもつ大環状亜鉛錯体をリ-ド化合物として、1)コンピューター計算に基づく新規機能性分子の設計と合成、2)それらの核酸塩基認識能、核酸ハイブリッド形成阻害の検討、3)in vitroでのタンパク質合成阻害実験を行った。 1.分子内にインターカレーターをもつ新規大環状亜鉛錯体を合成し、種々のモノヌクレオシドやポリヌクレオチドとの親和性をpH滴定やUV吸収法により調べた。金属配位結合、水素結合、スタッキングなどの溶液中の相互作用を、IR、NMR、UV、螢光測定で確認した。また、三元錯体を単離し、そのX線結晶解析により固体状態での結合様式を明らかにした。 2.大環状亜鉛錯体による核酸ハイブリッド形成阻害反応を、融解温度測定により調べた。その結果、これらは特定塩基に結合し、特定の核酸ハイブリッド形成を阻害することがわかった。 3.E.coli.TG1のリボソームおよびタンパク合成に必要な分画成分を再構成したin vitro系を用い、大環状亜鉛錯体のポリフェニルアラニン合成阻害能を検討した。その結果、分子内にインターカレーターをもつ新規大環状亜鉛錯体は、ポリフェニルアラニン合成を完全に阻害した。今後、これらの作用機序を様々の対照実験などにより解明し、これを踏まえた新たな遺伝発現制御試薬の創製へ展開したい。
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