高齢者の末梢皮膚血流量の低下は、加齢に伴う諸障害の一つの要因と考えられているが、その詳細は明らかではない。そこで65才から92才の男女合計50名において、手背中央部の末梢皮膚血流波形をレーザードプラー血流計にて皮膚表面から非侵襲的に測定し、日常生活動作の容易さや入浴前後での変化との関連で比較した。コントロールとして20代女性10名の同部位の末梢皮膚血流波形も測定した。分析はテープに記録した血流波形をAD変換してコンピューターに取り込み、周波数分析等を行うことにより定量的に行った。 記録された波形を末梢動脈閉塞性疾患患者にてScheffler等が分類した4つのタイプにあてはめて検討したところ、20代女性においては良い血流状態を反映していると解釈されている“aperiodical"タイプは80%以上であったのに対し、高齢者では日常生活動作が比較的良いものでも50%以下、寝たきり者や準寝たきり者では10%前後であり、その他は血流状態が悪化していることを反映していると解釈されている“small waves"や“missing"タイプであった。周波数分析の結果では、高齢者では脈拍に一致する1サイクル前後の群、呼吸に一致すると思われる0、4サイクル前後の群、および交感神経による調節を示していると思われる群が検出された。比較的ADLの良い状態の高齢者の入浴前後の比較では、交感神経による調節に相当する周波数群の血流量に上昇がみられるケース、脈拍に一致した周波数群の血流量に上昇がみられるケースがあることがわかった。入浴後は血流が改善していると解釈される波形を多くのケースが示したが、中には全く影響がないと解釈されるケースもあった。今後動脈硬化による血管そのものの物理的な変化と、心機能や神経による調節機能などの機能的な変化の要素を区別しつつさらなる検討を重ね、高齢者のQOL向上に結びつく指標を取り出したいと考える。
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