研究概要 |
本年度は有明海産のアカニシを用いて種々の環境下での発色性の検討を行い、以下の研究実績を得た。 1.生貝中の色素前駆体の発色性 生のアカニシの鰓下腺(パ-プル腺)に含まれる貝紫色素前駆体(6-ブロモ-2-メチルチオインドキシルサルフェート)の発色性に影響を及ぼす要因には,貝が持つ酵素(プルプラーゼ),紫外線,酸素及び系中のpHなどがあり、それらの要因の強弱によって発色性が異なった。これは,乳白色の色素前駆体が酵素の作用によってチリインドキシルとなり、さらに酸素によって二量化して紫色の6,6-ジブロモインジゴに至るまでに,貝紫中間体の6-ブロモ-2,2ジメチルチオインドリン-3-オン(赤紫色)や6-ブロモイサチン(黄色)及び6,6-ジブロモインジルビン(赤色)などを生じることがあるためである。加熱して酵素の影響を除くと茶色(インジゴブラウン)を帯びて紫色には至らなかった。また,紫外線を除くと緑色(チリバージン)になったが紫外線を当てると紫色になった。このときに、メチルチオ基の脱離が生じる。そして、弱アルカリ性の系では赤みが強い紫色になり,強アルカリ性では茶色になった。他方,弱酸性から強酸性では青みが強い紫色になった。生貝のパ-プル腺で染色を行うと,貝の量が少ない場合は薄紅色に,多い場合は黒紫色になった。一度染色した残液で染めると青色(インジゴ)に発色したことから臭化インジゴが繊維内部への拡散や収着が早いと思われる。2.貝紫の発色性 紫色に発色した色素は水酸化ナトリウムなどアルカリ性の系中でハイドロサルファイトナトリウムによって還元され,黄茶色のロイコ貝紫となる。これを繊維内部で酸化して再び紫色に発色させることは,藍染めと同様の「建染染料」として,またコチニールなどの「動物染料」のひとつとして利用できる。生貝のパ-プル腺とロイコ貝紫の発色性の相違点は,ロイコ貝紫は紫外線を当てると青色に発色することである。これはロイコ貝紫の臭素の結合が切れてインジゴ構造になったためと考えられる。また,生貝のパ-プル腺と同様にアルカリ性が強いと赤みを帯び,染色の残液では青色に発色した。
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