研究概要 |
平成6年度は,アカニシを用いて貝紫の調整方法を検討し,以下の成果を得た。 1.鰓下腺の採取 組織は生貝の殻を割ってピンセットで取り出した。色素は加熱(短時間),塩蔵,乾燥あるいは冷凍した貝からも採取できたが,収量は生よりも少なかった。2.色素前駆体の抽出 溶媒はエーテルが溶解性,均染性,色相においてエタノールや水よりも優れていた。3.発色 色素前駆体は直射日光下,溶媒内で撹拌しながら発色させたほうが短時間で紫色になった。調整 発色した色素とその他成分を分離するために希硫酸処理とエタノール洗浄を行った。調整後のアカニシ貝紫にはジブロムインジゴが3%含まれ,インジゴその他の色素成分は見出されなかった。 平成7年度は,生貝色素前駆体の発色性と調整した貝紫色素の再発色性を検討し,以下の成果を得た。 1.生貝色素前駆体の発色性 乳白色の色素前駆体は貝が持つ酵素,紫外線及び系のpHによって発色性が異なった。加熱して酵素を失活させると紫色にはならず,弱い加熱では茶色を帯びた。紫外線を遮断すると緑色で,再露光すると紫色になった。アルカリ側では赤みの紫に,酸性側では青みの紫になった。これは,発色条件によって貝紫中間体の種類や生成量が変化したためと考えられる。2.貝紫の再発色性 カセイソーダとハイドロによって還元されたロイコ貝紫は建て染め染料として利用できるが,再発色時に紫外線を受けると青みが増すと共に発色ムラが生じた。これは紫外線によってロイコ貝紫の臭素結合が切れてインジゴ構造となることに起因する。
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