研究概要 |
平成6年度には、急性低圧低酸素環境下における持久的トレーニングが脂質代謝に及ぼす影響を検討するために、5、000m級の高所を目指す一般健康成人を対象にした持久的トレーニングを急性低圧低酸素環境下において実施した。これは、本申請人が先に行った急性低圧低酸素環境下における持久的トレーニングで観察した顕著なHDLコレステロールの増加の追試を目的とした実験であった。被検者は、九州大学可可西里(中国)学術探検隊員11名(男子10名、女子1名:20〜65歳)であった。トレーニングは、低圧シミュレーター内を用いた急性低圧低酸素環境下における自転車エルゴメーター運動であった。暴露高度は、3、000mから5、500mまでの各相当高度であり、暴露頻度は週1回であり、計9回のトレーニングを行った。一回当たりの運動時間は30〜60分であり、また、トレーニング強度は常圧下で測定した最大酸素摂取量の50%相当強度の心拍数になるよう負荷が設定された。トレーニング前、後及び帰国後に血液生化学分析のための採血を行い、一般血球(RBC,WBC,Ht)及び脂質代謝関連(HDL,LDLコレステロール,TG,TC)の各測定を行った。このトレーニングの結果、本申請人が先に観察したと同様なHDLコレステロールの有意な増加(45mg/dl v.s. 50mg/dl)やTGの有意な減少が認められ、急性低圧低酸素環境内での持久的運動が脂質代謝に特異的な効果をもたらすことが認められた。これらの結果は、常圧下で行った持久的トレーニングで観察された脂質代謝における改善効果と比較し、急性低圧低酸素環境下における持久的トレーニングでは、特に、そのトレーニング回数において、有意に少ないトレーニング回数でも顕著な改善効果をもたらすことを示唆する結果であった。次年度においては、脂質代謝関連の測定をより詳細に行い、この特異的効果のメカニズムに迫りたい。
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