研究概要 |
今年度は研究の最終年度にあたり,民族誌的数学の立場に立つ数学教育の可能性の理論的検討にもとづき,いくつかの素材を掘り起こし,その教材化を試みることにより,この数学教育の可能性を実証的に明らかにすることを目標としていた(平成7年度研究計画・方法).数学教育の実践を念頭におけば,この数学教育については可能性のみでなく,必要性にも言及すべきであると考えてBishop,A.J.による今日の数学教育が西欧数学による文化的侵略であるとの考えを手かがかりとして必要性の検討をも加えて行った. 民族誌的数学の教材化の例として,メキシコからの教員研修留学生からマヤの20進法の実際の教授を受け,次年度において学部初等科数学(講義)の一こまに用いることができる教材を開発した.また,わが国における方陣研究の第一人者を招き,この方面の専門的知識の伝授,研究成果の動向等の教えを乞うため,平成7年12月2日に研究会を開催し,翌12月3日に第27回東北数学教育学会年会において講演会を開催した. 現職教員の研修の水準の教材開発としては,数学と美術との境界領域にある黄金比を美術を背景として数学の立場からとりあげた「美のソフト数学史」(平成7年7月31日,秋田県総合教育センターにおいて講演),及び「線形方程式とEuclidの互除法」(平成7年8月7日〜9日,15時間,初等科数学の単位認定講習)を開発した.以上の幾つかの教材開発の大部分は未だ西欧数学の範疇にあり,非西欧数学をも数学教育に取り込もうとする本研究の目的を十分に達してはいないが,ともかくこれまでの体系的数学の教授からは確実に自由となった教材開発が実行され,この研究が目指す数学教育の可能性が実証的に明らかとなった.なお,これら開発された教材は適切な教材化のエラボレーションを行うことによって算数・数学の教材への転換が可能である.
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