研究概要 |
平成6年度は民族誌的数学の立場に立つ数学教育なる概念を,メタ数学の概念を援用し,若干補強することによって,これまでの数学教育の概念枠組みを破壊することなく,ある拡張の中に位置づけることが可能であることを得た.この成果を第26回東北数学教育学会において口頭発表した. この数学教育の実践を念頭におけば,可能性のみでなく,必要性にも言及することによって教育的意義が明確化できると考え,この研究の当初の計画には含めていなかった必要性の検討を加えることにし,平成7年度に今日の数学教育は西欧数学による文化的侵略であるとするA.J.Bishopの理論を手かがかりに必要性を検討した. 民族誌的数学の教材化の例として,メキシコからの教員研修留学生からマヤの20進法の実際の教授を受け次年度以降の学部初等科数学(講義)の数学的活動用教材を開発した.また,わが国の方陣研究の第一人者を招き研究会と講演会を開催して教材開発にむけての専門的知識と研究成果に関する情報の伝授を受けた. 現職教員の研修の水準の教材開発として,数学と美術との境界領域にある黄金比を美術を背景として数学の立場からとりあげた「美のソフト数学史」(平成7年7月31日,秋田県総合教育センターにおいて講演),及び「線形方程式とEuclidの互除法」(平成7年8月,15時間,単位認定講習)を開発した.以上の教材開発の大部分は未だ西欧数学の範疇にあり,非西欧数学をも数学教育に取り込もうとする本研究の目的を十分に達してはおらず,文字どおり萌芽的研究の域を出ていないが,これまでの体系的数学の教授から確実に自由となった教材開発が実行され,民族誌的数学による数学教育の可能性が実証的に明らかとなった.これら開発された教材は適切な教材化のエラボレーションを行うことによって学校数学の教材への転換が可能なものである.
|