本研究の中心課題は多変量解析の分野で最も進んだ手法の一つの共分散構造解析とそれを実現するための最新のソフトであるEQSを用いて、第二言語能力の構成因子とその習得に関連する学習者要因を中心とした因子群のモデルについて、主要な2つの仮説を実証的に検証することであった。そのうち、第一の仮説はモデル基準側の因子群である外国語能力の部分について、80年代から続いている単一能力説と複数能力説の対立を止揚し得るものとして、現在、理論的には、最も多くの人に受け入れられている多層複数能力説、つまり、最上層に一般第二言語能力(本研究では英語能力)、その下層に4技能、語彙力、社会言語学的能力などの個別能力が存在するという説であった。第二の仮説は、説明側の因子群の中で、情意因子群に関するGardner他の統合型学習意欲優位説と認知因子群に関する、Krashenのモニターモデルによるノンインターフェースモデルとを組み合わせた総合モデルの優位性であった。 本年度は昨年度に行なった予備実験で見いだされた問題点、即ち、学習者要因の因子群用の観測変数の中の、セルフモニターの部分について、自己評価についての文化差によるアンケート項目の解釈と反応パターンの違いに留意して修正をほどこした上で、当初の予定より約30%小さい200名弱の大学レベルの実験参加者に対して本調査を行った。結果は本研究の2つの中心的仮説のうち、多層複数能力仮説はおおむね支持され、この点では理論的な定説が妥当であることが示唆された。他方、Gardnerに基づく統合型学習意欲優位の仮説とKrashen型のノンインターフェース仮説はいずれも支持されず、特に後者については、フォーマルなインストラクションとインフォーマルな接触、さらには、それらから生成される、明示的知識と暗示的知識の間には何らかのインタフェースの必要が示唆された。
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