本年度ではミオグロビン(Mb)のモジュールF4とヘモグロビンαサブユニットのモジュールF4を置換した2種のキメラグロビン蛋白質の変異遺伝子、Mbα(モジュールM1、M2+M3がMb、M4がαサブユニット)及びαMb(モジュールM1、M2+M3がαサブユニット、M4がMb)を合成することに成功し、その発現を試みた。発現効率は比較的良好で、いずれも数十mgの精製標品を得ることに成功した。ヘムの結合実験からはどちらのキメラグロビンも1:1でヘムを取り込むことができたが、円二色性光分散の測定からは蛋白質の構造がやや崩れたことが明らかになり、天然のグロビンのヘムの結合ほど安定にヘムポケットを形成していないことが明らかになった。会合特性の結果から、αMbではそれ自身で非特異的なサブユニット会合を起こし、分子量数十万のポリマーを形成した。しかし、βサブユニットの存在下では比較的安定な(αMb)β型ヘテロ二量体を形成し、βサブユニットへの特異的結合を示した。一方、Mbαはそれ自身では、ホモ二量体(Mbα)_2で、このキメラグロビンもβサブユニットとの特異的な会合特性を示し、(Mbα)β型ヘテロ二量体を形成した。以上の結果は、天然では単量体でしか存在し得なかったMbに対してモジュールの置換により会合特性を付与することができ、選択的なサブユニット会合が可能であることを示している。しかし、αMbでもβサブニットと結合したことは、αサブユニットのモジュールM4のみがβサブユニットとの選択的な結合を支配するということではなく、また、いずれのキメラグロビン蛋白質が天然のヘモグロビンのように四量体を形成できなかったことは、モジュールの単純な置換だけでは完全にはヘモグロビンの会合特性が再現できないことを示している。
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