本研究課題では、天然界での蛋白質分子の分子進化における重要な過程であるエクソンシャッフリングを新たな蛋白質分子の設計に応用することを最終的な目的として、グロビン蛋白質におけるモジュール置換を系統的に行ない、単量体で存在するミオグロビン(Mb)とHbのサブユニット間にモジュール置換を行うことにより、グロビン蛋白質の多量体化機構とモジュール置換グロビン蛋白質の構造解析を試みた。作製を試みたMbとHbとのモジュール置換グロビン蛋白質は、M1からM3までがMb、M4にHbのモジュールを置換したMbMbα、MbMbβと、その逆の組み合わせのααMb、ββMbで、このうちββMbに関しては蛋白質の発現が認められなかったが、残りの3種類のモジュール置換グロビン蛋白質は、ヘムと定量的に結合し、ミオグロビン様のグロビン蛋白質を形成した。MbMbαは構造が不安定で、一部疎水性残基が露出しているためか、それ自身では非特異的な会合を示していたが、MbMbβ、ααMbはそれ自身で二量体を形成することが明らかとなった。さらに天然サブユニットとの会合特性は、いずれも天然βサブユニットと特異的にかつ安定に会合し、二量体を形成した。このことは、会合特性を持たないMbにHbのモジュールを導入することで、特異的にサブユニットを認識して会合する特性が付与できることを示している。しかし、熱変性や、円二色性の測定より、MbMbα以外のモジュール置換グロビン蛋白質においても二次構造の減少は顕著で、天然サブユニットに比べ蛋白質としての安定性は大きく低下していることが明らかになった。さらに詳細な検討を行うため、NMRを用いた構造解析を試みたが、これらモジュール置換蛋白質の高濃度領域での不安定性から、十分な結果は得られなかった。以上の結果は、新たな機能を持つ蛋白質の分子設計において、モジュール構造は基本となるものの、構造安定化のための処理、例えば部位特異的アミノ酸置換や他の蛋白質との会合体形成などが必要であることを示している。
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