研究概要 |
ヘム合成系の第二酵素であるδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)は、cDNAをプローブとしてノーザンブロット法により分析すると酵素タンパクの分子量から予想される約1.5kbのバンドの他に約5kbのバンドが得られる。しかもこのような現象はヒトでのみ見られ、その実体および生理的機能については不明である。申請者らは赤血球分化とヘム合成の相互調節機序を追及する試みの一環として、ヒト赤血球系の培養細胞HEL,K562,YN1、ヒト末梢血、ヒトリンパ球系の培養細胞から分離したRNAをノーザンブロット法により分析し、これらの2バンドの量比は細胞種により異なっており、赤血球系の細胞の中でも分化の程度により異なることを見い出した。一方、申請者らはヒト末梢血リンパ球からイントロン6を含むALADの異常mRNAを発見し、HEL細胞から分離したtotalRNAを出発物質として、RT-PCR法によりイントロン6(121bp)を特異的プライマーを用いて増幅し、クローニングに成功した。これをプローブとして、異常mRNAと赤血球系細胞の成熟度との関係について比較検討したところ、ALADmRNAの2つのバンドのうち、イントロン6は約5kbのバンドに一致して検出されたことから、スプライシング異常を持つALADはヒト各種細胞中に普遍的に存在し、特に赤血球系細胞においては分化の程度により量的な差異があることから、細胞分化にかかわっている可能性があることが確認された。 赤血球特異的なALAD欠損性ポリフィリン症の一例において、リンパ芽球から分離した遺伝子DNAの赤血球特異的な転写調節領域を解析したが、既報の塩基配列とは異なる部位を発見した。ただし現在知られている転写調節因子のいずれとも異なっていることから、さらに新たな分化調節機構が存在する可能性が示唆された。
|