Vibrio parahaemolyticusの極毛モーターがNa^+駆動型であることを利用し、その回転に対する特異的阻害剤であるフェナミルを用いると、側毛遺伝子の発現量が増加する事を見いだしていた。本年度、フェナミルの濃度を変えて遊泳速度と側毛遺伝子の発現誘導量との関係を詳細に調べたところ、阻害剤非存在下で約50μm/sで遊泳している状態から、少し速度が低下しても誘導はあまり起こらなかったが、遊泳速度が30から35μm/s以下になると急激に誘導が起ることを見いだした。一方、粘度を変化させて遊泳速度と側毛遺伝子発現誘導量との関係を調べると、フェナミルによる場合とほぼ同様の関係になることが示された。これらのことからNa^+の流入阻害による極毛の回転阻害も、外力を加えることによる回転阻害も側毛発現誘導の刺激としては同じであることが示され、極毛モーターが粘度センサーの一部、あるいはそのものであるというダイナモメーター仮説が正しいことを強く支持する結果が得られた。この成果について、投稿準備中である。このことにより、粘性の影響を完全に排除した形で、べん毛回転の低下による側毛遺伝子の発現を測定する系ができ、扱いにくい粘性体を使うことなく研究を進めることのできる道を開くことができた。一方、ノマルスキー式微分干渉顕微鏡とリアルタイム画像処理を組み合わせることにより、細菌べん毛の視覚化できるシステムを組み立てるという研究計画は、これまでのところうまく行っていない。画像処理あるいは顕微鏡のシステムを今後検討し、改善する予定である。また、培地の粘性をあげたときの極毛回転スピードが、側毛の形成と菌体伸長にどのように影響するかを詳細に調べたが、文献で報告されているようには、液体培地中での菌体の伸長は起こらないことが判明した。さらに、ビブリオ菌の宿主ベクター系を確立したので、分子遺伝学的なアプローチが行えるようになった。
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