本研究では、蛋白質に対する変性作用が異なる、陰イオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と非イオン性界面活性剤オクチルグルコシド(OG)の二種類の界面活性剤の混合系に可溶化した大腸菌外膜蛋白質OmpAを対象とし、膜蛋白質の安定性を実験的に評価することが目的である。 本年度には、まず、ハイドロキシアパタイトによるクロマトグラフィーを導入することにより、約10mgのOmpAの精製標品を得、サイズ排除クロマトグラフィーに、低角レーザー光散乱測定を組み合わせた測定システムにより、様々なSDSとOGの組成におけるOmpAの溶存状態の評価を行い、上記界面活性剤の混合系の組成の変化に伴う、この蛋白質の集合状態、および比屈折率増分の変化の測定を行った。さらに、上記界面活性剤混合系自体の熱力学的性質を明らかにするために、種々の塩濃度での、SDS-OG混合水溶液の表面張力の測定を行い、この界面活性剤混合系の界面活性剤単量体濃度(臨界ミセル濃度)とミセル組成の関係の決定を行い、この界面活性剤混合系のほぼ全組成にわたる、両成分の活動度の決定を行った。 これらの研究により、界面活性剤存在下での膜蛋白質の変性-復元の過程を「溶媒変性」のモデルにしたがって考察するための基礎的知見を得ることができた。ただし、現時点では、両界面活性剤の結合量の総量に相当する比屈折率増分の測定に留まり、具体的な個々の成分の結合量の測定には至っていない。今後は、それぞれの成分の結合量の決定によって、この系におけるOmpAの構造変化に関する熱力学的な過程をさらに定量的に考察できる知見を集積することが課題である。
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