本研究の目的は、陰イオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と非イオン性界面活性剤オクチルグルコシド(OG)の二種類の界面活性剤の混合系に可溶化した大腸菌外膜蛋白質OmpAを対象とし、膜蛋白質の安定性を実験的に評価することである。 これまでに、サイズ排除クロマトグラフィーに、低角レーザー光散乱測定を組み合わせた測定システムにより、様々なSDSとOGの組成におけるOmpAの溶存状態の評価を行い、上記界面活性剤の混合系の組成の変化に伴う、この蛋白質の集合状態、および比屈折率増分の変化の測定を行った。これらの研究により、SDS存在下で変性した膜蛋白質OmpAが、OGの添加によって、おもに2つの協同的転移を通じて変性前の構造に復元することを明らかにし、この膜蛋白質の構造変化を、両者の界面活性剤の結合の観点から解析する段階にある。■この界面活性剤存在下での膜蛋白質の構造変化の過程は、一般の蛋白質の場合についての「溶媒変性」のモデルにしたがって考察することが可能であると考えられる。そこで、本年度には、水溶性蛋白質であるリボヌクレアーゼのSDS変性ならびに上記混合系における構造変化の検討を行い、在来の「溶媒変性」のモデルによる解析を行ったところ、SDS変性に対する蛋白質の安定性は、尿素変性に対する安定性の半分程度に見積られることが示された。しかしながら、SDS濃度の変化に伴うSDSの結合量の変化は、在来のモデルに従わない。このことは、界面活性剤による蛋白質の変性の機構が、尿素などの水溶性の変性剤によるものとは異なっていることを示す。■膜蛋白質のSDS存在下での変性ならびに安定性の評価においては、この界面活性剤と蛋白質の相互作用の特殊性を考慮することが必要であり、当初の目的を達成するには、この系における水溶性蛋白質の挙動についての知見も平行して検討していく必要性が示唆された。
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