現在までのところ、蛋白としてヘモグロビンをガラスのゲル中に閉じ込めた試料及び蛋白を入れてないガラスのゲルのみの試料に対する中性子小角散乱実験を行なった。溶液の重水(D_2O)と軽水(H_2O)の比を変えて行なった実験より、ガラスのゲルからの散乱は、およそ重水60%軽水40%の溶液中に置いた時、ほぼ消えることを見いだした。この結果は、ガラスのゲル中の溶液が外部の溶液と完全に置き換わった場合の計算値である重水67%軽水33%と異なる。これは、ガラス中にゲル作製の際に閉じ込められ、外の溶液と交換できない軽水が多くあるためと考えられる。ゲル作成の条件を変えた実験も行ない、ガラスのゲルがどのような構造になっているのか解析を行なった。ゲルの構造を決めるのは容易ではないが、小さな球が紐のようにつながり、各球間の距離がガウス分布をとるようなモデルを用いることで、散乱ベクトルq>0.01‡^<-1>の領域はうまく説明ができた。それによると、小球の大きさは、大体直径10〜20Å^<-1>程度で、それらが数百個つながっている。より低角度側にも、より大きな構造からの散乱が観測されるが、精度不足で解析はできなかった。また、ガラス中に閉じ込められた蛋白の構造を調べるためにヘモグロビンを入れた試料の散乱実験を行なったが、重水60%、軽水40%の溶液中に置いた時、蛋白と溶液との散乱振幅の差が小さくなり散乱強度が非常に弱くなった。そのためガラス中でのその構造を決めるまでに至っていない。これは、蛋白量を増し、測定時間を長くすることで解決できると思われるので、現在、蛋白量を増やした試料を作製中である。
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