研究概要 |
平成6年度までに軟骨細胞のin vitro培養系における生存調節の研究は順調に進展し、以下のことが明らかになった。軟骨細胞は高密度培養系では無蛋白培地中で長期間生存可能であるが、低密度培養系では無蛋白培地中で2-3日以内に典型的なアポトーシスにより死滅した。また高密度培養系からの馴らし培地により低密度培養系の細胞の生存が促進された。このことから、軟骨細胞も、水晶体上皮細胞と同様に、その生存に他の種類の細胞からのシグナルは必要としないが、同じ種類の他の細胞からのautocrineの生存シグナルを持続的に受け取ることを必要とし、それが得られない場合はアポトーシスにより自殺することが明らかになった。またIGF-1,PDGF,bFGFの組み合わせでこの生存シグナルが構成されていることが明らかになった。さらにプロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンにより軟骨細胞にアポトーシスが誘導されることも明らかになった。このことは、軟骨細胞は持続的に細胞外から生存信号を受け、この信号がプロテインキナーゼを含む細胞内の信号伝達系を介してアポトーシスプログラムの実行を抑制しており、スタウロスポリンによりこの経路が遮断されるとアポトーシスのプログラムが実行されるものと解釈される。さらにこの時シクロヘキシミドが存在してもアポトーシスの抑制が認められなかったことから、アポトーシスプログラムの実行に必要な蛋白は軟骨細胞内に常に発現していることが示唆された。また軟骨細胞は水晶体上皮細胞と同様に、酸素ラジカルに対して極めて感受性が高いことが確認された。 水晶体上皮細胞の生存調整に関しては、種々の既知の蛋白性細胞増殖因子を単独であるいは組み合わせて低細胞密度培養系に投与してみたが有意に生存率を上昇させるものは見つからなかった。ただし軟骨細胞の高密度培養系からのconditioned mediumに水晶体上皮細胞の低細胞密度培養系における生存を促進する活性が存在することが明らかになった。
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