平成7年度には水晶体上皮細胞の生存調節をさらに追求し、以下の知見が得られた。1)水晶体上皮細胞を無蛋白培地中、低細胞密度で培養するとアポトーシスにより死滅するが、この細胞死をCed-3/ICEファミリープロテアーゼの阻害剤であるzVAD-fmkが抑制した。2)水晶体上皮細胞を高濃度のスタウロスポリンで処理すると細胞死が誘導されるが、この細胞死もzVAD-fmkによって抑制された。これらの結果から水晶体上皮細胞のアポトーシスの分子機構にはCed-3/ICEファミリープロテアーゼのメンバーが深く関わっていることが明らかになった。また胎生18日目の胎仔(E18)から成熟個体に至るラット・マウスから水晶体を摘出し、水晶体中に存在するpoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)の消長を検討したところ、胎生期にはPARPのintactのバンド(116kDa)のみが観察されたが、生後6日目を過ぎる頃からPARPがCed-3/ICEファミリープロテアーゼの一員であるCPP32によって限定分解されて生じる85kDaのバンドが観察されるようになった。成熟個体の水晶体においては、上皮細胞層では116kDaのバンドのみが観察され、水晶体繊維では85kDaのバンドのみが観察された。これは水晶体上皮細胞から水晶体繊維への分化の分子機構にアポトーシスの分子機構が用いられていることを強く示唆する所見である。また平成7年度には線維芽細胞・腫瘍細胞の生存調節も検討し、以下の知見が得られた。1)ラット座骨神経由来線維芽細胞・マウス胎仔線維芽細胞・ラット線維芽細胞由来セルラインRat-1の生存調節を検討したところ、これらの線維芽細胞は無蛋白培地中では高細胞密度で培養してもアポトーシスにより死滅すること、またこのアポトーシスはウシ胎仔血清ないし蛋白性細胞増殖因子によって効果的に抑制されることが明らかになった。このことからこれら線維芽細胞の生存には他の細胞からの生存因子が必要であり、それが得られない場合にはアポトーシスにより自殺することが強く示唆された。2)色々な腫瘍細胞の生存調節を検討したところ、その生存の、他の細胞からの生存信号に対する依存性が低下しているものがあることが明らかになった。
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