神経細胞の細胞周期を制御する因子のうち、サイクリン関連因子の微量、高感度定量を行なうことを目的とした。また別の神経細胞分化成熟因子として一酸化窒素およびその合成酵素が作用することを新たに見いだし、その機能の解明を行なった。 1.細胞周期を制御する種々の因子のうち、サイクリンD1、サイクリン依存性キナーゼのcdk5について検討を加えた。方法として、鶏胚網膜の凍結切片を用いた免疫組織化学および網膜から酵素処理により分散培養した単一神経細胞での免疫組織化学によった。その結果どの神経細胞も抗サイクリンD1抗体および抗cdk5抗体に対して強く染色されることが明かとなった。また網膜神経細胞としては最後に分化成熟してくる、視細胞でも陽性であった。 2.次にマイクロウエスタンブロッティングでラット小脳におけるサイクリンD1およびcdk5の検出を試みた。成ラットではサイクリンD1がはっきりと認められるのに対し、cdk5は検出できなかった。小脳の層構造の形成活動が著しい生後8日目のラットで、さらに少量のタンパク質を微量マイクロウエスタンブロッティングで分析したところcdk5の免疫バンドが認められ、サイクリンD1よりもシグナルが強いことを見いだした。神経細胞の分化および成熟にcdk5がなんらかの関与を行なっている可能性が強く示唆された。 3.細胞周期を制御する因子の別の要素として、一酸化窒素およびその合成酵素に関する動態を発生中のラット小脳について調べた。既に一酸化窒素合成酵素を不可逆阻害剤で、その作用を抑えることにより小脳顆粒細胞の分化成熟が抑制される事を報告した。一酸化窒素合成酵素にはいくるかの分子種があり、そのうちどの種類がこの分化成熟の役割をになっているか、微量マイクロウエスタンブロッティングにより検討を加えた。発生中のラットの外顆粒層、分子層、内顆粒層を取りだし乾燥重量にして1〜3μgの極微量を分析した。その結果一酸化窒素合成酵素の分子種の内、神経タイプ(nNOS)および内皮タイプ(eNOS)のバンドが認められ相補系に働いている可能性を見いだした。
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