研究概要 |
実験はモルモット海馬の500μm厚のスライス標本を作成して行った。有髄神経標本としてCA1領域の放線層を走る線維群を、無髄神経標本としてCA3の苔状神経線維群を用いた。それぞれの軸索の線維群に刺激電極を置き、軸索を伝導する活動電位を含む複合反応電位を記録し、その波形のうちから軸索成分を薬理学的な方法で分離した。この電位に対する(1)GABA(1.0mM)、(2)グルタミン酸(0.5mM)、(3)セロトニン(0.5mM)、(4)ドーパミンD1受容体作動薬(SKF38393,10μM)の効果を検討した。その結果以下のことが明らかになった。 (1)軸索成分をCa^<2+>-freeあるいはCa^<2+>0.5mMの灌流液で伝達を遮断することにより分離した場合では、GABAでCA1およびCA3領域の軸索成分の振幅が5〜10%程度減少した。他の薬物の投与による効果はなかった。 (2)CNQX(10μM)およびAP5(50μM)でグルタメートの伝達を遮断した場合では、GABAでCA1領域の反応が抑制され、さらにCA3領域では、セロトニンあるいはドーパミンでも約5%減少した。しかし、スライスによっては有意の効果の見られないものもあった。 以上の結果から、軸索に伝達物質が作用し活動電位の伝導が制御される可能性が十分あると結論した。その効果はGABAで最も顕著であり、セロトニンあるいはドーパミンでは細胞外Ca^<2+>が重要であること、および有髄と無髄の神経で差のある可能性が明らかになった。神経終末にはこれらの伝達物質の受容体があることが知られており、この部に作用した時に電位の減少がおこる可能性もあるが、グルタメートによる振幅の減少が少ないこと、薬物により差異がのあることは神経末端での可能性が少ないことを示唆している。以上の結果をより信頼のあるものにするために、さらに実験を進める必要があると考える。
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