生後第1週に神経毒カイニン酸をネコ視覚野深層部に注入すると、subplatecellがcortical plateの細胞に先行して成熟しカイニン酸受容体を発現していることからsubplate cellのみを選択的に破壊することができること、さらにこの発達薬理学的処理を受けた動物では眼優位カラムが形成されないことが示されている。我々はまず、生後数日の仔ネコの大脳視覚野にカイニン酸を局所注入し、生後7週令に第一次視覚野により単一細胞記録を試みた。カイニン酸の注入量や記録部位を変えて実験を繰り返したが、このような薬理学的処理を施された動物の視覚野からは満足のいく光反応を記録することはできなかった。次に電気生理学的記録をおこなった動物を含め、生後数日以内にカイニン酸処理を施した動物の視覚野における分子発現を免疫組織学的に検索した。その結果から生後第1週令における視覚野へのカイニン酸注入は必ずしもsubplate cellのみを選択的に破壊するのかどうかその特異性は疑わしいこと、あるいは仮に選択的破壊が生じてもその後さらに二次的変化が誘導されていることが強く示唆された。さらに我々は左右大脳半球視覚野を連絡する脳梁投射の形成における発達初期のカイニン酸処置の効果についても検討した。今回の研究では生後5日にカイニン酸を一側視覚野に注入して、5週令にカイニン酸注入半球にさらにコレラ毒Bサブユニットを注入し、逆行性標識実験をおこなった。その結果、反対側にて逆行性標識された脳梁投射ニューロンの数が減少し、通常の脳梁投射帯には標識される細胞がほとんど認められないことがわかった。トレーサ注入半球内での逆行性標識細胞の数や分布に異常所見は認められなかったことから、発達初期のカイニン酸処理は視床-大脳皮質投射のみならず、脳梁投射様式にも影響することが示された。
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