創傷治癒過程において受傷後早期に血管新生を促すことは、創部への栄養供給を確保することのみならず、感染を防止するための免疫担当細胞の母床を形成する意味で重要である。そこで真皮層の細胞として血管内皮細胞(EC)を選択した。しかし、これまでECを直接移植してその血管新生効果を検討した報告はなかった。これは、間葉系由来のECに対して、その生理活性と細胞間結合を維持したまま回収するための適当な酵素が見あたらないためである。本研究では、熱応答性高分子(N-イソプロピル アクリルアミド鎖)を結合した培養基材(感温性ディッシュ)による低温細胞剥離法を用いて 血管内皮細胞シートを得、組織構築された集合細胞の形態での移植を試みた。その生着過程を組織学的に検索することによってECの血管新生効果を検討した。 ウィスター系ラットの胸部大動脈を無菌的に採取し、血管を反転した。その両端を平滑筋の混入を防ぐためにクランプして、感温性ディッシュ上で20%FBSを添加した改変MCDB131培地を用いてexplant cultureした。Subconfluentに達した時点で継代培養を行い、4代継代したECを37℃から5℃の低温にすることで細胞シートを剥離した。同種ラット背部2ケ所から全層皮膚を挙上しpanniculus carnosusを除去して元の創部に縫合し tie-overdressingを行った。この際、尾側の植皮片と母床との間に培養ECシートを移植し、他方は対照とした。これより、肉芽組織内、真皮内のどちらも危険率5%で有意にEC移植群の方が対照群に比較して血管数の増加が多いことが確認された。次に、血管新生効果をコラーゲン型人工真皮を用いて議論した。その結果、血管内皮細胞移植群は、人工真皮のみの対照群に比較して血管数の増加が有意に多かった。また、人工真皮の収縮も移植群の方が小さい傾向が窺われた。
|