本研究では、日本のODA事業のうち漁港建設事業とカラバルソン地域総合開発計画を主として取り上げ、関連機関・団体等による事業のアクセプタンスにおいて、以下に見るように、当初の目標・期待と現実とのギャップの存在が明らかにされた。 施設の建設は計画通り完成しても、フィリピンの施設運営側に引き渡された後に汚職・ミスマネジメント・環境汚染等の運営上の支障が生じると、日本のODAのイメージダウンとなってしまう点がとりわけ深刻な問題である。 具体事例としては、カマリガン漁港建設事業。訪問調査で判明した問題点に、冷凍倉庫の目的外流用、トラックの持ち出しによる行方不明などがあり、水産庁出先機関係員らの不満がつのっている。根本的には同漁港の立地条件が問題。河川港で漁場から遠く、干潮時は漁船航行が不可能。施設の操業率は約50パーセント。さらに零細漁民を排除・冷遇し、商業的漁船への便宜提供により、貧富の格差を拡大する傾向も指摘されている。カラバルソン地域総合開発計画においても、急激な土地の値上がりとともに大地主と零細農民との格差拡大傾向は著しく、石灰火力発電所の公害も深刻な問題となっている。また港湾拡張・道路建設・商工業用地や住宅造成などのための土地収用が、軍隊による住民の強制退去となって国際問題化したバタンガス港(日本のODA事業)の例さえもある。 被援助国政府が要請した事業にもかかわらず地元が反発する場合の多いことは、政府が地元会社の意思を反映しているはずという建て前の破綻を意味している。援助が対日感情の悪化さえ招いてしまう。事業実施の前に的確なパブリック・アクセプタンスの調査が必要不可欠なのである。
|