ジャイアントインパクトにより月が形成されたのか否かを月の岩石学、地球化学に基づいて評価するためには、衝突直後に起きたと考えられる超高温の真空蒸発過程を実験的に再現し、ケイ酸塩メルトから各種金属元素が蒸発する際のカイネティクスを明らかにする必要がある。この為には、従来の惑星科学に於ける蒸発実験では扱われなかった1500〜3000℃の高温領域での非可逆的な蒸発過程を実験し得る新たな装置の開発が必要となる。 1000〜3000℃程度までの温度範囲、100〜10^<-7>torr程度の真空度の範囲でシリケイトメルトからのカイネティクスを研究するために、小型真空炉を試作した。検討の結果、市販の蒸着装置またはイオンスパッター装置を本実験の為の小型真空炉に改造するのが、費用、行程の両面から好ましいことが分かった。そこで、東工大に現有の蒸着装置の加熱部分に各種の金属箔ヒーター、W-Re熱電対を設置し得るように改造した。試料加熱方法としては、マイクロプロセッサーによるPID制御方式の電圧フィードバック型サイリスタユニットを用いた。 本研究では先ず、衝突後の蒸発が高真空中で起きたと考え、蒸発速度と月の総化学組成を相法を満たす飛散物質のサイズ分布を考察する。次にこの考え方で説明が困難になった元素群について、蒸発に対するガス雰囲気の効果、地球及び月内部でのマグマオーシャンでの結晶分化の効果、月内部での2次的な金属核の形成、などを考察する。その為に従来のコンドライト比を仮定した上で推定された月の全化学組成を見直し、その様な仮定に基づかない推定値を求めた。
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