研究概要 |
動物各組織において、加齢に伴い組織の縮小や構成する細胞数の減少が見られている。この細胞数の減少は、細胞死と細胞増殖能の低下によると考えられる。すでに、加齢に伴うDNA polymerase α,βの忠実度の低下が、DNAの複製や修復複製を介して、分裂細胞群のみならず分裂終了細胞群にも変異を誘導し、最終的に細胞死を導くことを示唆してきた。今回は、細胞増殖に深く係わると言われているPCNAおよびDNA polymerase δ活性の変化を、若齢および老齢ラットの再生肝を用いて測定し、加齢に伴う増殖能の変化について追求した。また、DNA polymerase δの忠実度についても測定し、DNA polymerase δによるDNA合成での変異出現頻度の変化についても検討した。 生後3カ月齢の若齢ラット再生肝核質抽出液のphosphocellulose column chromatographyにより、PCNAは2種類のcomplex formとして分離できた。一般的に、PCNAは増殖細胞核のみに存在すると考えられているが、complex formのうちの1種(L type)は核質のみならず細胞質にも存在し、このタイプは正常肝に比べ肝部分切除後24時間および48時間の再生肝細胞質で著しく増加し、細胞増殖に関連することを示唆した。他の1種(H type)は核質のみに見られ、再生肝での増加は少なかった。一方、生後24カ月齢の老齢ラット再生肝細胞質中のL typeは術後24、48時間でわずかに増加するだけで、加齢によるPCNAの誘導能は低下していることが明らかとなった。同様に、3′->5′exonuclease活性を併せ持つDNA polymerase δ活性もその忠実度も加齢により低下していた。しかし、この活性の低下はDNA polymerase δとPCNAとの分離が不完全なためPCNAによる活性化の影響とも考えられ、現在検討中である。 以上、PCNAの誘導能の低下も、加齢による細胞増殖能の低下に強く関連していることが示唆された。
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