本研究では、国の内外を問わず消費地遺跡より出土した陶磁器の生産地推定の基礎的研究として、最も代表的な陶磁器の生産地である肥前地域の陶磁器の変遷にしたがって、基準資料を選択し、微量成分元素存在量による各時期ごとの特徴をみいだし、さらに、関連地域から消費地遺跡出土陶磁器片の生産地推定の結果から肥前陶磁器の流通の実態を把握することを目的とする。諸種微量成分元素の定量には機器中性子放射化分析を用いた。主成分元素であるNaとFe、微量成分元素であるRb、Cs、Ba、La、Ce、Sm、Eu、Lu、Th、Hf、Co、Sc、Crの15元素の定量を行った。結果の解析には定量された元素存在量を変数とするクラスター分析を用い、生産地遺跡出土陶磁器の識別・分類、消費地遺跡出土陶磁器の生産地推定を行った。 生産地遺跡出土陶磁器については、肥前産京焼風陶器として、鍋島藩窯、志田西山窯、内野山南窯、御経石窯などから出土した陶器、また、肥前各地の窯跡出土磁器(九州陶磁文化館)、さらに関連として中国景徳鎮産磁器(出光美術館)につて分析を行い、微量成分元素存在量により識別・分類が可能であった。消費地遺跡出土陶磁器片については、国内では北九州市京町遺跡、加賀市耳聞山遺跡、東京都飯田町遺跡、国外ではインドネシア国内の遺跡などから出土した陶磁器について分析した。これらの消費地遺跡から出土した陶磁器の生産地として、京町遺跡では肥前産の京焼風陶器、耳聞山遺跡では肥前産磁器の確認された。飯田町遺跡では香川県高松の理平焼の特徴をみいだした。インドネシアの遺跡では中国産の磁器とともに肥前産の磁器が確認され、肥前磁器の海外輸出を化学的検討により明らかにすることが可能であった。本研究は、陶磁器の流通の問題解明に関して基礎的データとなり、今後の継続的な研究により多くの成果が期待されるであろう。
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