研究概要 |
古墳から発見される象眼遺物は、熊本県江田船山古墳出土国宝銀象眼銘大刀や埼玉県稲荷山古墳出土国宝辛亥銘鉄剣などのように銘文を持つ物が多く、歴史を理解する上で重要な物である。近年銘文を有する遺物の発見が重なり、それらが研ぎ出された大きな成果が得られている。しかし錆を削って象眼を研ぎ出す方法では字画が不鮮明になったり、製作技法などの情報を失わせる危険があった。 水素プラズマを使用して象眼表面の錆を除去する方法はこのような危険がなく有効な方法である。 象眼を覆いている錆のx線回折分析を行った。その結果、主としてオキシ水酸化鉄やマグネタイトなどに覆われていることが判明した。 これらの錆を水素プラズマや酸素プラズマで処理してその変化を調べた結果、プラズマ処理条件としては、高周波周波数:13.56MHz、高周波出力:2Kw、処理温度:約200℃、ガス注入量:窒素-400ml/min,水素-400ml/min,アルゴン-200ml/minが最適であることが判明した。 またオキシ水酸化鉄やマグネタイトなどIII価の錆が水素プラズマと反応して還元され、象眼を覆ている錆層に体積変化が起き、さらに減圧下での加熱によって作用が起きて錆が象眼表面から剥がれやすくなるメカミズムが判明した。 プラズマ処理後は実体顕微鏡下で剥がれやすくなった錆を竹へらなどで丁寧に剥がすことによって象眼を露出させることが可能になった。この方法は象眼線を傷めることなく処理することが出来るので、銘文象眼の処理には最適な方法である。これらの実験により方法が確立され現在は、実際の保存処理の応用され実施例も10例ほどになっている。
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