わが国古代において金や銀で製作された金工品は大変貴重なものであるとともに、発掘によって出土するものは極めて希であり、これまで自然科学的な研究はほとんど行われていなかった。本研究では実際に発掘された金製や銀製の金工品の構造と材質を調査し、古代社会における金工品の製作技法の解明をめざしている。調査は、主にX線ラジオグラフィーや蛍光X線分析法などの非破壊的手法を用いて行っている。これまでに、わが国で初めて出土した金製の勾玉の構造をX線ラジオグラフィーや蛍光X線分析で精査する機会を得た。材質は金に銀がかなり含まれ、強度を上げるために成分の調整を行っていた可能性があることを確認した。また電子顕微鏡を用いて、表面の状態を精査し、製作手順をシュミレーションした。また、古代の馬具に用いられた銀鋲の構造を探り、鉄鋲の頭を銀の薄板で巻いた構造である琴を解明した。鍍金により金色を呈する馬具本体との色彩的コントラストを狙った装飾性を強調した技法である琴が判明した。今後、さらに調査事例を増やし、古代金工品の材質と製作技法の解明を計っていきたい、と考えている。また、古代日本に直接的影響を与えた中国や朝鮮半島が位置する東アジア地域をはじめ、文献的な調査も含め、古代地中海地域や西アジアまでをも視野に入れた地球的規模における金工技法の歴史的変遷を概観する基礎的知見を蓄積するように努めていきたい、と考えている。
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