研究概要 |
わが国の古代に用いられた金工品の中で、特に金や銀を用いた製品の材質や製作技法を材料科学的な手法で探り,古代金工における材質や技法の歴史的変遷を追い、古代技術の世界を解明する糸口を掴むのが本研究の目的である。中国や朝鮮半島とは異なり、わが国古代では、金製品の出土は極端に少ない。一見金製品に見えるものの大半は鍍金によって表面を装飾している場合がほとんどである。まず、電子顕微鏡を用いた鍍金層表面の微細構造観察から古代鍍金技術の特長を抽出し、金製品の表面観察のための基礎的知見を提示した。これに基づき、古墳時代に出土事例が豊富で、形態的にも幾つかのタイプに分類できる耳環の構造と製作技法を探った。さらに、テキスタイルの華麗な装飾に用いられたと考えられる金糸の材質とともに、製作時に表面に残された道具の痕跡を電子顕微鏡で探った。また、わが国で唯一の出土例である金製勾玉の製作手順を電子顕微鏡などの観察から工程順にシュミレーションすることができた。金や銀の細い線を鉄地表面の線刻にはめ込み文様を書く象嵌技法もわが国では古墳時代に多く認められる。厚く鉄さびに覆われ、肉眼で確認できない銀象嵌をX線CTスキャナーで解析し、表面に残された文様全体を立体イメージとしてに把握することに成功した。 古来、金が尊ばれる理由の一つに黄金光沢がある。青銅は基本的に銅と錫の合金であるが、成分の配合により黄金光沢を疑似的に呈する。発掘によって出土する青銅製品は、緑青さびに覆われオリジナルな表面状態を認識することがほとんど不可能である。本研究では金属の色彩的効果にも注目し、古代金工品のオリジナルな色彩を探る試みも行った。 本研究の成果を簡単にまとめる。古代の金、銀製の金工品の材質と製作技法の調査から、 (1)金製品において、構造や用途に合わせて含まれる銀や銅などの成分を調整していた可能性がある (2)貴重な金や銀を節約するため鍍金などの表面装飾技法が高度に発達していた (3)金や銀などお有色金属をうまく使い分け、装飾的効果を上げる工夫がされていた (4)金色のイメージを得るために金色を呈する青銅を使用した可能性がある (5)複雑な構造を可能とするため、銀鑞付けなどの鑞接などの技法が発達していた ということがわかった。以上、現代に伝わる伝統的金工技法の基本のほとんどがすでに古墳時代には出揃っていたことが実証できた。
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