金はその独特の輝きとさびにくい性質のため、あらゆる古代文明において、装身具などに加工され重用されてきた。わが国でも古代から金は重要視されていたが、古墳時代までは資源の開発までおこなうにはいたらず、実際の製品としては表面だけを金で覆った鍍金によるものがほとんどであった。わが国における発掘調査によって出土する金製品がきわめて希なのはこのためである。しかし、数少ない金製金工品の製作には当時の高度な金工技術が駆使されている。本研究では、発掘調査で出土した金製および銀製の金工品の材質を分析するとともに、製作技術の詳細に対しても材料科学的な見地から調査し、古代の金工技術を解明することを目的とした。調査で用いた手法は、主に非破壊的手法による蛍光X線分析と走査型電子顕微鏡である。以下、本研究において得られた知見について簡単にまとめる。わが国で出土した古代金製品の材質は、概ね17〜23金の金組成をとる。その他の元素のほとんどは銀であり、銅の含有量が極めて低いのが特徴である。そして、製品の用途に合わせて材質を選択することもおこなわれていたと考えてよいだろう。一方、古代の銀製品は銀の濃度が低いものでも92%前後と純度が高く、ほぼ純銀に近いものも多いのが特徴である。銀には不純物として主に銅が含まれている。また、土中で腐食が進んでいるものから臭素が検出され、保存処理の必要な遺物もみかけられた。製作技術の点では、叩いて延ばした薄板を接合して立体に仕上げているものがほとんどであることが特徴である。この接合には、蝋付け法がすでに用いられており、当時の技術レベルの高さを窺える。古代における金製および銀製金工品の製作には、現代に伝わる伝統的金工技法の基本のすべてがすでに登場していたと考えられる。本研究を通して、限られた材料と道具のみを用いて、経験的に体得された古代技術の水準の高さを再認識することができた。
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