本研究においては、(1)カオス回路の基本特性を調べること、(2)ネットワーク系の特性を調べること、の2点について研究を進めた。 (1)自励系の新回路 ネットワーク系の実験を行うためには、外部駆動系よりも自励系である方がより望ましい。そこで我々は、カオスを発生する新しい自励系回路の開発を試み、これに成功した。この回路におけるカオスの基本特性について、実験研究を行った。回路は、LCRとOPアンプからなる単純なもので、回路の中の1つの抵抗値Rを変えていくことにより、周期倍分岐によるカオスとタイプ3間次性カオスが生じる。我々は、これらのカオスを解析した。周期倍分岐によるカオスはファイゲンバウムのシナリオに一致した典型的なカオスであった。一方、タイプ3間次性カオスは本研究においては、いわば副産物的なものであるが、タイプ3間次性カオスの実験例は極めて少なく、本研究から、カオスの発生点における臨界現象やラミナー相への再投入機構について新しい実験事実が得られた。 (2)ネットワーク系の特性 カオス系でネットワークを構成する前に、非線形周期振動系でこれを行った。具体的には、ファン・デル・ポール振動子と等価な回路を作り、同一のもの4個を周期的境界条件のもとで結合させた。結合の強さをいくつか選び固定してネットワークを組み、特性を実験および数値計算によって調べた。時系列データはディジタルオシロスコープで取り込んだ。その結果、同一パラメータ条件にもかかわらず、各振動子は初期条件に依存して多くの状態をとることがわかった。つまり、周期状態、準周期状態、カオス状態を移り変わる様子が見られた。結合を強くすると、4個のうち2個が同期した状態を作りだす。その同期したペアは初期条件によって組み替えられることも観測された。もし振動子の個数を多くすると、長時間をかけていろいろな状態を移り変わりながら、最終状態へ移行するものと考えられる。今後の課題として、結合の個数を増やして、最終状態への緩和過程を調べることが、最も興味深いと考えられる。
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