2年計画のこの研究の今年度の目的は、実際の系において、カオス的散乱を実証する方法を案出し、その観測量からカオス的リぺラ-の特性を求める手法を開発することであった。そこで、カオス的散乱の強度ができるだけ強く、理論的取扱いができるだけ容易なポテンシャルを選択し、散乱の数値的実験を行なって、理論的考案を進めた。そして、未知のポテンシャルによる散乱に、諸々の誤差に基づく不規則散乱ではなくて、カントル集合的なリペラ-によるカオス的散乱を含むかどうかは、遅延散乱の特徴的な角度分布を測定すればよいことが判明した。この角度分布の第一の特徴は、ポテンシャルによって一意的に決まるリペラ-特有の分布であって、入射粒子の入射角にはよらないこと。第二の特徴は、同じ角度に散乱されてくる粒子の角運動量分布が、リペラ-のフラクタル性を反映したフラクタル構造を示すことである。従って、これらを精密に測定すれば、そのデーターから、内在するカントル集合的はリペラ-の諸特性を抽出することができる。ただし、この方法の正しさは、平面内の散乱に対してのみ数値実験的に証明された段階であり、3次元空間での散乱の本格的な数値実験による検証への予備的実験を現在行っている。この方法によるカオスの検出は、リペラ-周辺の流れに対する力学系理論によって考案すれば至極もっともなことであり、3次元空間での散乱にも適用できることは間違いないと確信している。問題は、フラクタル構造を最も効率よく検出する方法にある。なお、平面内の散乱も、現在盛んに研究されている半導体ヘテロ構造の2次元電子系への適用等を視野に置くと重要になってくるであろう。来年度は、カオス的散乱の拡散現象への現れ方の探索と量子系への拡張を予定している。
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