既に我々は、高凝固活性をもち血液流動性維持に重要な血管内皮ヘパラン硫酸プロテオグリカン(Ryudocan)のラットおよびヒト分子コア蛋白cDNAのクローニングに成功している。今回、ヒトRyudocanコア蛋白cDNAのコードするアミノ酸配列をもとにラット分子と相同性のない部位のペプチドを合成し、ヒト分子に対する特異抗体の作製を試みた。これを組織免疫学的な本分子存在様式の検索に応用したところ、胎盤絨毛トロホブラスト、新生血管内皮に発現が見られたものの、当初予想していた正常な血管内皮での顕著な発現は認められなかった。また、大動脈粥状硬化巣においても血管内皮にはあまり発現されておらず、むしろ粥状部間質での明らかな染色が認められた。その他、腎糸球体ボウマン嚢、遠位尿細管間質、心筋細胞間質などに明らかな発現を認めた。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは動脈内膜肥厚硬化の原因のひとつである血管平滑筋細胞の増殖抑制作用、あるいはbFGFのレセプター補助作用をもつなど多機能分子として注目されており、血管あるいは組織障害部での修復過程に何らかの重要な働きを果たしていると推測された。一方、この特異抗体を用いてヒトRyudocan分子の測定系、すなわち、抗体作成に用いた合成ペプチドを^<123>Iでラベルし特異抗体との免疫沈殿における検体中のヒトのRyudocan分子の拮抗性をStandard(STD)に換算する、Inhibition radioimmuno-assay法を試みた。ヒト血管内皮様細胞(EAhy)培養上清でのRyudocan濃度の経時的測定を行ったところ、培養7日目に最高値200pg/mlとなった。現在、より簡便かつ精度のよいELISA系開発の検討を行っており、臨床検体でのヒトRyudocan血中濃度の測定法を確立し、各種血管障害時での本分子動態とその病態との関連の解析に応用することにより様々な内皮細胞機能におけるRyudocan分子の役割解析を進めて行く予定である。
|