血管壁には、アンチトロンビンIIIコファクター活性を持つヘパリン様物質(ヘパラン硫酸プロテオグリカン:HSPG)が局在し血液の流動性を保つことに重要な役割を担っていると考えられている。既に我々は、抗凝固活性をもつ血管内皮ヘパラン硫酸プロテオグリカン(Ryudocan)のラットおよびヒト分子コア蛋白cDNAのクローニングに成功している。昨年度は、ヒトRyudocanコア蛋白cDNAのコードするアミノ酸配列をもとにした合成ペプチドを用いてヒト分子に対する特異抗体を作製し、これを組織免疫学的な本分子存在様式の検索に応用した。そして、胎盤絨毛トロホブラスト、新生血管内皮に発現が見られたものの、当初予想された正常な血管内皮での顕著な発現は認められなかった。また、大動脈粥状硬化巣においても血管内皮にはあまり発現されておらず、むしろ粥状部間質での明らかな染色が認められた。また、血管周囲の末梢神経線維束にも強い染色像が認められた。今年度は、抗ヒトRyudocanモノクローナル抗体を用いて血管内皮様細胞の培養上清からヒト分子を精製分離し、各種ヘパリン結合蛋白分子との相互作用の解析を試みた。その結果、精製ヒトRyudocan分子は、ミドカイン(MK)、bFGF、およびTisssue Factor Pathway Inhibitor(TFPI)の順にそれぞれとヘパラン糖鎖依存性の強い親和性をもつことが判明した。ヘパラン硫酸は動脈内膜肥厚硬化の原因のひとつである血管平滑筋細胞の増殖抑制作用、あるいはbFGFのレセプター補助作用をもつことが報告されており、血管あるは組織障害部での修復過程に何らかの重要な働きを果たしている推測された。また、Ryudocan分子が神経線維伸長作用をもつMK、あるいは外因系凝固反応阻止因子であるTFPIなどとも相互作用をもつことが判明し、本分子が生体内でも多機能分子として様々な血管機能に関わっていることが示唆された。
|