近時、コンピュータおよび通信技術の急速な発展により、マルチメディアの展望が開けてきているが、知的財産法上の扱いがその発展のネックになっているといわれている。マルチメディアの知的財産権をめぐる問題は、表現手段の複合から生じる問題、供給手段の多様化(とりわけ、オンライン・ネットワークによる供給)から生じる問題、情報のデジタル化から生じる問題の3種に分けられ、その中でも、デジタル化こそがマルチメディアの基盤となるもっとも重要な法律問題であるといえる。ところが、従来の著作権法はアナログ著作物の法であり、デジタルの世界には必ずしも適合していない。本研究では、デジタル技術とネットワークに適合的な知的財産(とりわけ、著作権)のルールのあり方を検討する。 まず、第1章では、デジタル化とマルチメディアのもたらす基本的問題を、「デジタル化権」概念を軸に検討する。続いて、第2章では、著作物のデジタル化とマルチメディアにおける最大の問題と考えられる著作者人格権、とりわけ同一性保持権のあり方について、諸外国の状況と比較しながら検討する。第3章では、デジタル・ネットワークを通じて著作物が供給される場合における著作権のあり方について検討し、「使用」中心の法律構成の必要性を指摘する。第4章では、ネットワーク上の著作物に関する取引を含めて、種々の取引が行われるにあたっての取引法、契約法上の基本的問題を概観するとともに、特殊な物流形態としてオンライン流通の場合の権利処理のあり方を検討する。第5章では、著作物のエンドユーザーである消費者の立場から見ての問題点を検討する。最後に、第6章では、デジタル化された情報がネットワークを流通することから生ずる種々の倫理的問題を、著作権問題やネットワーク・オペレーター責任を含めて検討する。
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