本年度においては、並行輸入と著作権、及びアメリカ著作権制度における功利主義の位置づけ、という二つのテーマについて研究を行い、前者については学術論文として成果をほぼ公表、後者についても一部を学術論文として公刊するに至った。なお、後者のテーマについては単行書の次年度内の公刊を計画している。 第一に、並行輸入と著作権の関係について、わが国下級審において初めての判断が平成6年度に下されたことを契機として、著作権法113条、同26条による並行輸入規制の可能性について検討を行った。 その結果、113条の趣旨について従来必ずしも明らかとされてこなかったこと、同種の規定を有する連合王国著作権法上の判例によれば内外権利者が別の場合には差止めが認められていないこと、がまず明らかとなった。26条については、所謂国際的消尽理論について、アメリカにおける展開を検討した。 第二に、アメリカ著作権制度の基礎理論については、制度の規範的基礎づけをめぐる自然権理論の位置づけから出発し、著作物の類型論、さらには大陸法系諸国制度との対比について検討を行った。その結果、今年度においては、アメリカ著作権制度は基本的に創作への経済的インセンティブ付与を主動因とするものであるが、一方、権利の原始的帰属という場面においては、功利主義は十分制度の規範的基礎を提供することができず、何らかのヴァージョンの自然権に依拠がなされてきたことがまず明らかとなった。一方、自然権理論が権利の効力の場面において援用されることは、権利範囲の不明確を招くおそれがあることもまだ同時に確認された。
|