1.希薄栄養系である海洋表層生態系全体の生産性を支配する栄養塩再生産過程の稼動者として最も重要な役割を担う繊毛虫プランクトン群集の季節消長とシスト群集との関係を研究した。対象海域は北方温帯沿岸域として典型的な宮城県女川湾である。 2.プランクトン群集は採水法によって、またシスト群集は採泥法によって定量採集を行い、繊毛虫はプロタルゴール染色法によって分類同定した。シストは泥から篩別した後、培養し、発芽した栄養細胞を分類同定した。これにより、主要なシストを外部形態によって同定することが、世界で初めて可能になった。 3.シストの発芽を支配する環境要因としては水温が最も重要であることが判明した。低酸素環境は発芽を抑制するが、その条件は女川湾では夏期鉛直成層期に限って現出することが、現場溶存酸素計(今年度購入)等による測定で明らかになった。優占繊毛虫プランクトンにとって夏期高水温期はシストの賦活期であり、元来発芽期に相当していないので、この時期の低酸素条件は大きな障害にはならないことが示唆された。 4.優占種のシストは9-10月に発芽を開始、12月に栄養細胞(プランクトン)群集は秋・冬のピークを形成するととも、シストも形成する。冬を生残した栄養細胞は春に再びピークを形成するが、やはり同時にシストを形成する。秋・冬のシストと春のシストは共に高汚水低酸素期を経て9-10月に同時に発芽するという年周期が始めて明らかになった。
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