研究概要 |
第35次南極観測の期間中に,14種20株の鞭毛藻および鞭毛虫の培養株を確立した.また,日本近海(ベーリング海,港湾域を含む)からも10種のハプト藻を分離培養した.これらの培養株を用いて以下の実験を行った.まずえさ粒子としてラテックス性蛍光ビーズとFITC-labelled-dextranを用いた取り込み実験を行い,各培養株の食作用能力の有無を調査した.その結果,ハプト藻のなかで,Chrysochromulina属に属する種類はほとんどのものが食作用を行うことが確認された.これまでこの属のごく一部の種で食作用が確認されていたが,本研究によって食作用がChrysochromulina属の一般的性質の一つであることが明らかになった.これまで多くの種で食作用が確認されなかったことは,これらの食作用が一部の種のように活発ではなく,効率が悪いことによっている.食作用の様式は,われわれがこれまでChrysochromulina hirtaやC.spiniferaで明らかにしてきたようなハプトネマや細胞表面の鱗片によるものではなく,細胞から細長い管が生じ,その先端でえさを補足し細胞内に取り込むというものであった.この方式では一度に1個のえさ粒子を捕獲することしかできず,ハプトネマや鱗片で大量のえさ粒子を補足して集塊として細胞内に取り込むという既知の様式と比べると著しく効率が悪いものであった.食作用のメカニズムの詳細を明らかにするべく,このような粒子捕獲の過程をビデオが像として記録し,解析している.以上のハプト藻のほかにも,黄金色藻に所属する海産鞭毛藻を培養しており,食作用能が存在することを確認した.本研究によって食作用は海産鞭毛藻類にきわめて一般的にみられる性質であることが明瞭になった.
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