研究概要 |
光合成で独立栄養を行う一方で、えさ粒子を食作用によってとりこむ藻類が多数知られており、混合栄養生物とよばれる。ハプト藻Chrysochomulinaはそのひとつで、海洋の食物連鎖に大いに貢献していると考えられるが、知見はまだほとんどないといってよい。極海域を中心に天然でChrysochromulinaのどのような種がどの程度の食作用を行っているかを明らかにすることを目的に研究を行った。南極域およびグリーンランドにおいてハプト藻の食作用能の調査を行ったところ、Chrysochromulina hirta,C.spiniferaおよびBalanigerによる食作用がみとめられた。他のハプト藻、たとえばPhaeocystisやPappospheraおよびC.parkeaeでは食作用はみられなかった。極海域ではハプト藻の現存量が少なく、食作用の十分な調査を行うことが困難であることがわかったので、これ以降は日本の沿岸地域から分離培養した株を用いて調査を行った。C.hirtaを用いて食作用の効率を調査した。ラテックスビーズを用いた摂取速度は粒子密度に比例して増加するが、10^7/mlで減少に転じた。これはハプトネマ状で形成される粒子塊が食胞の許容範囲を超えるためと考えられる。C.hirtaが摂取できる粒子塊の最大サイズは5μmであった。濾過速度は直径0.88μmのビーズで摂取速度の減少がみられないとき、約0.07nl/cell/minであった。C.hirtaの細胞容積を考慮すると、この効率は淡水域の主要な混合栄養生物である黄金色藻網のDinobryonのおよそ3倍にあたる。 本研究で分離培養したChrysochromulinaの種を用いて食作用様式の多様性を調査した。C.aff.brevifilum,C.asteroplastida sp.nov.およびC.strobilusはこれまでにわれわれが明らかにしたC.hirta,C.spiniferaのようにハプトネマを用いるものではなく、細胞の後端近くからチューブ状の突起を出し、これを用いてえさ粒子を捕獲するものであった。
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