研究概要 |
ビブリオ科のタイプ株16株を純粋培養し,集菌後,低浸透圧緩衝液中で溶菌させ、膜成分を調製した.この膜成分中のNADH oxidase活性に与えるナトリウム,カリウムその他の一価の陽イオン,およびHQNOの添加効果,pHの影響などを測定し、ナトリウム駆動型の呼吸鎖の有無を調べた.判断が難しい株は膜成分の調製,アッセイを3回ずつ繰り返した.この結果,大部分の株にナトリウム駆動型の呼吸鎖の存在が見いだされた.しかしVibrio cholerae,V.mimicus,V.proteolyticaなどでは確認されなかった.前2種の場合,系統的に他のビブリオ科細菌とははずれた枝を形成しているため,この呼吸鎖をコードする遺伝子自体を持っていない可能性がある.一方V.proteolyticaの場合には今回の膜調製のための培養条件下ではこの呼吸鎖が発現されてない可能性があり、現在検討中である. 一方、天然海水中の細菌群集においてこの呼吸鎖が機能しているかどうかを直接調べるのは方法論的に困難である.このため,培養実験によってナトリウム駆動型の呼吸鎖の機能を定性的に観察した.海水および淡水試料を異なるpH,ナトリウム濃度の人工海水に添加して増殖を観察したところ,淡水の菌はよりアルカリ側でかつナトリウム濃度を下げた場合に増殖が悪くなることが観察された.ナトリウムポンプ欠損株の増殖との比較などから,ナトリウム駆動型の呼吸鎖は弱アルカリ性と高塩分で特徴づけられる海洋環境でエネルギー論的に大きな意義があるものと結論づけられた。
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