海洋細菌に特徴的な呼吸鎖にカップルしたナトリウムポンプの生理生態的意義を明らかにするために、Vibrio alginolyiticus 138-2株(野生株)とそのナトリウムポンプ欠損変異株(Nap1)を用いた実験的検討を行なった。グルコースを唯一の炭素、エネルギー源として人工海水中で増殖を観察したところ、Nap-1はアルカリ側のpHlでかつ低ナトリウム濃度の際に同化効率が落ちた。また、増殖速度も一般に低下するとともに、栄養無添加の条件下では急速な死滅が観察された。これらの結果は、ナトリウムポンプが低栄養、高ナトリウム濃度、アルカリ性pHで特徴づけられる海洋で生体エネルギー論的に重要な働きをしていることを示す。また、Vibrio alginolyticusは二種類の鞭毛を持ち、その極毛はナトリウム駆動力を、側毛はプロトン駆動力をエネルギー源にしていることが知られる。それぞれ一方のみの鞭毛を持つ変異株、あるいは全くもたない変異株を用い、異なるナトリウム濃度下での遊泳速度を測定するとともに、ガラスへの付着に対する遊泳速度の影響について検討した。さらに、発光細菌の発光メカニズムとナトリウムポンプとの関わりについて検討し、発光に必要なアルデヒドの還元に、ナトリウムポンプに関わる呼吸鎖がカップルしていることを明らかにした。 今後、遺伝子レベルでナトリウムポンプの有無を検討し、その分布を明らかにして、その意義をさらに明瞭にしていく予定である。また、その知見をもとに、海洋細菌の起源および定義に新たな概念を付け加える予定である。
|