研究概要 |
申請当初に計画した平成6年度の研究目的をほぼ完全に達成した。 (1)代表的な大型石灰藻である紅藻サンゴモ科オオシコロの原形質膜を水性二相法で単離することに成功した。この膜にはCa-依存性ATPアーゼが存在し、生理学的なカルシウム濃度(100μM)下でプロトン(H^4)を細胞外へ放出する機能があることが明らかになった(日本植物学会第58回大会、1994、で発表)。高等植物のプロトンポンプはMg-依存性ATPアーゼであることから、この新たなプロトンポンプは藻類の、或はサンゴモ科石灰藻の特殊性を示すもので、大変貴重な発見である。このATPアーゼの生理的意義については今後検討を要する。石灰化に伴って形成されるプロトンの排出に関与する可能性や、輸送細胞に見られるよに、HCO_3からCO_2を形成し光合成に供給する可能性などが考えられる。 (2)円石藻のエミリアニア・ハックスレ-を用いて光合成と石灰化速度(コッコリス形成速度)を測定した。光合成を酸素電極を用いて、また光合成と石灰化速度を全炭酸及びアルカリ度の変化から、或は放射性炭素の取り込みによって測定した。その結果、この藻では、光合成速度:石灰化速度=役2:1で、両者の速度には大きな差はなかった。しかし、常に光合成速度が石灰化速度を上回った。また、結晶成長阻害剤であるハイドロオキシエチレデン-1,1-ジフォソフォン酸(HEDP)は光合成には影響を及ぼさず、石灰化を特異的に阻害する試薬であることが分かった。この試薬を使って、石灰化に伴って発生するCO_2(2HCO_<3->+Ca_<2+>→CaCO_3+H_2O+CO_2の反応に従って発生する)がこの藻の光合成の炭酸固定の基質として重要であることを明らかにした(第3回マリンバイオテクノロジー研究発表会、1994、で発表)。これは、石灰化に共役した、光合成のための新たらしい型の“炭酸濃縮機構"とも言えるもので、貴重な発見である。
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