研究概要 |
本研究は藻類の炭酸カルシウム沈着機構を解明することを主な目的として行った。研究材料として、石灰藻のサンゴモ類(紅藻植物門)と円石藻(ハプト植物門)を用い、次のような貴重な知見を得た。 1.円石藻エミリアニア ハックスレ-では、光合成速度:石灰化速度=約2:1であること、結晶成長阻害剤の1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)が石灰化の特異的阻害剤であることを明らかにした。また、この試薬を用いて、石灰化が光合成と無機炭素代謝で共役していること、石灰化は光合成へCO_2を供給するための一種の戦略であることを示唆した。2.円石藻プリュウロクリシス カルテレ-のコッコリス(炭酸カルシウムから成る鱗)の微細構造と結晶学的特性を明らかにし、コッコリスは2種の方解石の単結晶から構築され、エミリアニア ハックスレ-で提唱されたV/Rモデルがこの種にも当てはまることを初めて明らかにした。3.プリュウロクリシス カルテレ-の細胞にはCa^<2+>を結合する2種の酸性多糖A,Bが存在し、Bはコッコリスにも結合していること、これらはカルシウムを特異的に結合すること、A,Bの分子量はそれぞれ約9万、約5万であること、Bは溶液中で遊離の状態ではin vitroの炭酸カルシウム形成を強く阻害するが、セファロースビーズに共有結合により固定化されると阻害効果を示さず、準安定な炭酸カルシウム飽和溶液中で方解石結晶を特異的に誘導することを明らかにした。4.サンゴモ類のオオシコロから単離した原形質膜にはCa-依存性ATPアーゼが結合していること、このATPアーゼはプロトン(H^+)ポンプの機能を有すること、石灰化に重要な働きをしていることを示唆した。 これらの知見は、サンゴの骨格形成や軟体動物の貝殻形成なども包括する生物制御石灰化機構のモデルを構築するための重要な知見であり、また、結晶工学的分野や、最近の“CO_2問題"対策として二酸化炭素を不溶性の炭酸カルシウムとして生物学的に固定する技術などの分野にも大きく寄与する。
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