本研究では、イトマキヒトデの卵成熟中の卵の中に存在する蛋白質合成に依存したDNA合成を阻害する因子(この因子をS因子と呼ぶ)について、(1)その合成される時期や半減期、さらにDNA合成開始のどの段階に作用しているかなどの基本的性質を調べる。(2)その遺伝子や蛋白質の単離を行うの2点を目標として実験を行った。 (1)については、まず卵熟成過程のいろいろな時期に蛋白質合成阻害剤であるピューロマイシンを投与し、DNA合成の有無を調べた。その結果、卵核胞崩壊(GVBD)以前に蛋白質合成を阻害した場合にはDNA合成ができず、DNA合成能が出現するのはGVBDから第一極体放出までの間の時期であることが明らかとなった。この蛋白質合成を阻害することによって誘起されるDNA合成は^3H-thymidineの取り込みから、1回の完全なDNA複製を行っているか、あるいは、それより少ない量であることがわかった。さらに、ピューロマイシン処理後にいろいろな時間に投与したチミジンのアナログであるBromodeoxyuridine(BrdU)の取り込みを調べたところ、卵はDNA合成開始(ピューロマイシン処理後約2時間)から4時間以上もS期の状態にあることがわかった。通常のDNA合成には約30分しかかからないことから、蛋白質合成を阻害した場合には、卵のDNA合成は阻害はされないものの非常にゆっくりとしたものになると考えられる。 (2)S因子の遺伝子のクローン化については、ショウジョウバエのplu遺伝子をプローブとしてヒトデ卵のcDNAライブラリーを検索したが、陽性のクローンは得られなかった。しかし、ヒトデ卵のDNA合成開始には蛋白質キナーゼではなく蛋白質フォスファターゼが関与していることが判明した。現在この蛋白質フォスファターゼ遺伝子に対するcDNAのクローニングを行っているところである。
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